SBIG社製冷却CCDカメラ
ABG vs NABGの検証

更新:2012年 6月 27日 (水)

ABG(アンチブル−ミングゲート)とNABG(ノンアンチブル−ミングゲート)とは?

 皆様が冷却CCDカメラのご購入をご検討なされる際、ABG(アンチブルーミングゲート付き)、及びNABG(アンチブルーミングゲートなし)仕様のいすれの製品を検討する場合、それぞれのモデルがいったいどのような特徴を有するのか、また自分自身には実際にはどちらのモデルのほうが最適なのか、大いに悩まれるのではないでしょうか。

 そこでこのページでは以下のような
「テクニカル・コンテンツ」をご用意させて頂きました。実際のご購入モデルのご検討にどうぞお役立て下さいませ。

 
なお、当ページの内容については、あくまでも「現市場製品」のご購入判断にお役立て頂けますよう、この点にのみ的を絞って編集解説を行なわせて頂いており、一部の内容におきましては多少の主観を伴って判断を行なっている箇所が含まれます。以上を予めご了承の上、ご購入のご参照にお役立て頂きましたら幸いでございます。

 
さて、それでは具体的に「ABG仕様」・「NABG仕様」のいずれかをお決め頂くためには、もっとも大きな特徴の違いである「ブルーミング現象の発生有無」以外にも何点かの比較要素もございます。

 以上、まずは下記の「
ブルーミング現象」とは如何のようなものであるかをご参考下さい。


ブルーミング現象とは?
 CCD素子のそれぞれの画素が蓄えられる容量を越えた分の光量が発生した場合、溢れ出した光量(変換され「電子」となる)は隣接する画素に溢れ出すことになります。例えば実際には、
右写真のように画面内のような比較的に明るい恒星を撮影した時にCCD素子上のその画素が露光オーバー(つまり飽和容量を超えた露光)となり、そこで余剰となった「電子」が隣接した他の画素に流れる出してしまいます。

この現象を「ブルーミング」と呼び、一般的なCCD素子では、この余剰となった電子が読み出し方向(通常:画角に対して上下方向/機種によっては左右方向の場合もあり。)の画素に流れてゆきます。また、その余剰程度により、比較的に幅の広い「線」や、更にも増してその程度が強烈な場合には「帯」状のもので表示
れる場合もあります。(右図参照)

また、本来、CCD素子にはそれぞれに電子を貯える事のできる容量(→次々事項目:
「飽和容量」)が設定されており、これはその素子特有の固定機能となり、ユーザーサイドでの調整や設定は行なえませんので、結果、ご購入前にご選択頂く必要が発生してくるわけです。なお、このブルーミング現象の回避方法としては、「ブルーミングが起こらない露出時間」で再度撮影頂くか、ブルーミングを起こす恒星/対象を構図から外して頂くか、または画像処理ソフトウエア(アストロアーツ社製「ステライメージ」がオススメ)などで修正処理を行なうほか、特別な手段はございません。それだけに製品をお手にされる前に大いに悩まれるところかと思います。

 次は「
感度」要素での検証です。



ブルーミングの実際
(写真は中程度)


感度
 Kodak社製CCD素子に取り付けられるアンチブルーミングゲート(ABG)は、画素の有効面積のおよそ30%に及び、結果としてNABG素子と比べるとABG仕様のCCD素子の感度は約70%程度になりますが、幸いなことにKodak社製CCD素子は非常に低ノイズ特性を有しており、CCD素子の発生ノイズに比べると、圧倒的に光害によるバックグラウンドノイズの方が画像に悪影響を及ぼします。結果、ABG仕様のカメラで取得される映像の描写濃度(→S/N比)は、NABG仕様のカメラで取得される映像と比べて少しだけ下回る程度になります。

 さて、次は「飽和容量」要素での検証です。


飽和容量(Full-Well-Capacity)
 例えば、NABG仕様の9μ角の画素の場合、100,000電子量で飽和容量に達します。対して同サイズのABG画素においては、50,000電子量で飽和状態となり、それぞれの飽和容量以上に受光する電子はカウントされません。(これを感度のリニアリティが失われると表現します。)

 少々要点が外れますが、この「リニアリティ」が失われ問題になり得る用途とは、ズバリ光電測光観測や各種工業用測定用途などの精密測定を行なう場合で、対して一般観賞用撮影等には根本的に問題となるケースはあまり考えられません。それより、むしろ一般撮影用途においては、上記のブルーミング現象のほうがもっとも描写程度に依存して問題になると考えられます。



ABG付きのCCD素子の特徴
 さて、以上の事から一般鑑賞用撮影用途のいわゆる画像の「美的感」等の描写程度に重点を置いて検証した場合、上記のブルーミング現象を防ぐために、CCD素子にはアンチブルーミングゲート(ABG)を持ったものがお薦めとなり、これをABG仕様(のCCDカメラ)と呼び、特定の画素に電子がある程度(一般的には飽和容量の半分)蓄積され時点で自動的に余剰電子を裏口(ゲート)から逃がす働きをします。これによりブルーミング現象を効果的に抑えることができます。例えば、100倍アンチブルーミング保護のなされたCCD素子の場合、通常では漏れ出すはずの余剰電子を最大100倍量までを自動的に処理してくれますので、アンチブルーミング保護量を超える輝点がなければブルーミング現象が起こりません。

 以上の事から、例え大幅な露光オーバー状態でシャッターを切ってしまったり、M42等の明るい輝点と比較的描写の難しい「暗くて微細な」箇所を有する散光星雲等をより微細な「ディテール」までを完全に描写する場合において、多少の感度ロス(上記参照)が発生するのもの、この「ABG仕様」のCCDカメラならブルーミング現象を万全に抑制しながら目的とする撮影方法が行なえます。(反面、データ特性上でのリニアティは損なわれます。)

 なお、その感度ロスについては、概ね1.3〜1.4倍程度の露光をかけることで実質的に補うことが可能であることも大きな要点となり、「ABG仕様」のCCDカメラは取り扱いに難しい制限がなく容易な取扱いが可能です。


 
実際の天体の撮影では、M42(オリオン座の大星雲)などのように、淡くて暗い部分と非常に明るい部分が混同する場合は、アンチブルーミング保護を生かして撮影すると明るい部分にもれ出した輝線の発生を押さえることができ、このような場合には非常オススメです。


NABGのCCD素子の特徴
 さてさて、対して「ABG仕様」のカメラが得意とする上記用途とは異なる、例えば光電測光や小惑星/彗星捜索、新星ハンティング、更には科学的要素を持つ各種研究用途(光電測光など)などがご使用の目的である場合、NABG仕様のCCDカメラがをお薦め、もとより「最適」となります。もちろん、飽和容量を超える受光状態になれば、ブルーミング現象は起り得ますが、それでもブルーミングを起こした画素は別として、それ以外の画素情報と更にそれ以外の画素情報の間では「感度のリニアリティ」が保たれているため、取り込まれた電子量そのものが正確なデータとなりえ、このような特徴は正に学術的用途には必要不可欠となり、結果、学術/研究用途におきましてはNABG仕様のカメラの使用が必須となります。またABG仕様より高感度が得られる点も魅力です。

 
また、NABG仕様でのカメラにて鑑賞用撮影などを行なう場合、撮影条件、方法等で工夫をすることである程度のブルーミングを回避することが可能ではありますが、この場合、ブルーミングを起こす直前で露出を中断すると淡い部分は当然露出不足となり、これを補う方法として多重露出(コンポジット)を利用する事も実際に有効な手段と言えますが、これにはある程度の前準備(どの程度の露光でブルーミングが起こらないか)やコンポジットを行なう為のテクニックや露出枚数等の選定等、ある程度の経験や慣れが必要となります。


 要は上記「リニアティ」の確保はもちろんの事、本来研究用途には「電子数量を絶対数に比較(よりリニアティを確保しやすく)しながら、より幅の広いレンジ帯(最大飽和容量が高い)で測定を行なう」事が望ましいわけで、更にもちろんのこと、より高感度で測定効率が高まるという、これらの要素を優先し結果、研究用途等には「リニアティ」が保たれる「NABG仕様」が絶対的に選択されるわけです。


番外編的に、、、それならオートガイダー限定としての使用ならば...
 この「オートガイダー」とは、「天体撮影」を行なう際の、我々が住む地球の自転運動から生まれる「星の動き→恒星時駆動」をオート(自動)でガイド(補正)する為の用途にCCDカメラを使用する場合を指します。もちろんこの場合でも、上記の「どの要素」を優先するかということが争点となるものと考えられます。

 ・
「ABG仕様」特有の「ブルーミングの抑制」を取るか
 ・
「NABG仕様」特有の「高感度」を取るか

 以上の事から、製品市場的には「オートガイダーのみの限定利用」とするならば、少しでも高感度な
「NABG仕様」、「オートガイド」を初めとして「通常画像撮影」や「惑星用カメラ」等として幅広く利用するとお考えの場合には「ABG仕様」がお勧めとなります。

 さて、以上の事をお踏まえ頂き、改めて現行のSBIG社製冷却CCDカメラの実際の機種(モデル)に使用されているCCD素子の詳細を一覧します。(どうぞご覧下さい。)




SBIG社製冷却CCDカメラ・モデル別 「ABG/NABG」一覧表

CCDカメラ機種名
CCD素子型番名
ABG仕様
NABG仕様
ABGの強点弱点
 ST-7XE(ABG)
KAF-0401LE
(製造中止)
×

・一般鑑賞用撮影用途のいわゆる画像の「鑑賞目的」等の描写程度に重点を置いて検証した場合「ブルーミング」がほぼ起こらないため、より幅広いコントラストを有する対象の描写が安定的で、非常に取扱いやすい。

・「アンチブルーミングゲート」と呼ばれる「物理的な」ゲートCCD素子受光面を多少遮蔽するため、若干の感度ロスが発生する(30〜40%程)。

正しい使い方:上記感度ロスについては、概ね1.3〜1.4倍の露光をかけることで実質的に補うことが可能ですので、ガイディングシステムの構築やAOシステム(AO-8AO-L)等でガイディングを補いながら、より長時間撮影を心掛ける。
 ST-402ME(ABG)
 ST-7XME(NABG)
KAF-0402ME
×
 ST-7XMEi
 ST-402ME(NABG)
 ST-8XE(ABG)
KAF-1602LE
(製造中止)
×
 ST-8XME(NABG)
KAF-1603ME
×
 ST-8XMEi
 ST-1603ME
 ST-9XE
KAF-0261E
×
 ST-9XEi
 ST-10XME
KAF-3200ME
×
 ST-10XMEi
 ST-3200ME
 ST-2000XM
KAI-2020M
×
NABGの強点弱点
 ST-2000XMi

・より学術適用とのご利用(光電測光や小惑星/彗星捜索、新星ハンテイング、更には科学的要素を持つ各種研究用途など)がご使用の目的である場合「感度のリニアリティ」が保たれていて、取り込まれた電子量そのものが正確なデータとなりえるNABG仕様のカメラは最適。またABG仕様より高感度が得られる点も魅力。

・飽和容量わずかでもを超える受光状態になれば、ブルーミング現象が起り、画像描写に大きな影響を与えます。


正しい使い方:正に「データ取り」用途にはこれが一番で、対しまして「高感度」のファクターを「観賞用」用途に利用する場合には「ブルーミングを起こさないまでの限界の露出時間」の画像をコンポジット(画像の重ね合わせ)してより長時間撮影と同様の画像を目指します。ただし、この場合にはある程度の「撮影経験」が必要となり、例えわずかでも「鑑賞撮影」を兼用なされる場合には、上記「ABG仕様」が扱いやすく、オススメとなります。
 ST-2000XCM
KAI-2020CM
×
 ST-2000XCMi
 ST-2000XMi-UV
KAI-2020M-UV
×
 ST-4000XM
KAI-4022M
×
 ST-4000XCM
KAI-4022CM
×
各CCD素子の スペック(PDF)「1」 「2」量子効率(PDF)「1」 「2」
 STF-8300M
KAF-8300E
×
 ST-8300M
 STF-8300C
KAF-8300C
×
 ST-8300C
各CCD素子の スペック(PDF)「1」量子効率(PDF)「1」
 STL-1001E
KAF-1001E
×
 STL-1301E(ABG)
KAF-1301LE
(製造中止)
×
 STL-1301E(NABG)
KAF-1301E
(製造中止)
×
 STL-4020M
KAI-4022M
×
 STL-4020CM
KAI-4022CM
×
 STL-6303E(ABG)
KAF-6303LE
(製造中止)
×
 STL-6303E(NABG)
KAF-6303E
×
 STL-11000M
KAI-11002M
×
 STL-11000CM
KAI-11002CM
×
各CCD素子の スペック(PDF)  量子効率(PDF)



まとめ、、、 あなたの考える利用用途/範囲等から、どの「強点」を優先するか、逆に「弱点」を回避するかでお決め頂いても良いと考えられます。

以上をご参照の上、あなたに「最適な1台」をご入手下さいませ。ご判断が難解な場合やどうしても決めかねてしまう場合には、どうぞお気軽にご質問/ご相談下さいませ。
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