冷却CCDカメラ専用


「Hα」および「コンティニュアム*1」フィルターセットの有用性について



フィルター概念と原理

 デジタル一眼レフの普及により、赤い星雲等の撮像能力が話題になっています。なかでも最も関心の深い対象は、水素原子の放つHα光でしょう。いっかくじゅう座のバラ星雲、オリオン座のバーナードループ、ペルセウス座のカリフォルニア星雲、白鳥座の北アメリカ星雲などH領域の魅力ははかり知れません。

 SBIG冷却CCDカメラ、「Hαフィルター」、「コンティニュアムフィルター」の組み合わせは、これらHα像のディテールを高品位に細部まで再現することが出来ます。通常の「赤外用フィルター」ではHα光のみを取り出すことが出来ないため、このフィルターセットは「ナローバンドHαフィルタ」および「レッドコンティニュアムフィルター」から構成されます。これら2つのフィルタ特性は次のとおりです。(Fig.1参照)



Fig.1 Hαフィルタおよびレッドコンティニュアムフィルタの特性

「Hαフィルター」中心波長がHα放射の波長に適した中心波長656.3[nm]、半値幅4.5[nm]のナローバンド型バンドパスフィルターです。Hα光が主となる光のみを通過させ、CCDで撮像することができます。グラフ中の線はその波長の透過度を示しており、このフィルターはHα波長以外の光を遮断することがわかります。

「コンティニュアムフィルター」中心波長645nm、半値幅10nmのワイドレンジ型バンドパスフィルターです。このフィルターの特徴はHα横の分光帯を含んでいますが、Hα起因の放射線は含みません。このため645/10nmの分光帯は「ラインフリーコンティニュアムフィルター」、単に「コンティニュアムフィルター」と呼ばれています。645/10nmの分光帯は、プランクの黒体輻射*2に関する法則による光を意味します。純粋に水素が放射したHα光のみを撮影するためにはこのフィルターが必ず必要となります。


*1:Continuum Filter (linefree continuum filter)
*2:Plank`s law of Black body radiation(黒体放射ともいいます)


何故コンティニュアムフィルターが必要なのか

純粋なHα光を撮影しようと、中心波長656.3nmのHα光のみを通過させるフィルターを使用しても、Hαと同時に発生する黒体輻射による光の成分まで通過させてしまいます。このため1枚のフィルターで同じところから来る2種類の光を分離することは出来ません。純粋Hα光からすれば黒体輻射による光はノイズとなり、作品の質を低下させてしまいます。
そこで、冷却CCDでおなじみのダークフレーム除去のように、ノイズである黒体輻射による光の成分を減算すれば高品質ですばらしいHα像が得られるのです。(Fig.2 参照)


Fig.2 Hαフィルタとコンティニュアムフィルターの作用



Hαナローバンドフィルターのみでは黒体輻射による光が混入します コンティニュアムフィルターでノイズとなる黒体輻射による光を撮影します 両画像の差をとるとHα光のみの高品質な画像が得られます。


図のようにラインフリーのコンティニュアムフィルタは、天体が放射する異なる2つの現象からなる656.3nm付近の光を分離することが出来るのです。コンティニュアムフィルタは、656.3/4.5 nmナローバンドフィルタなどの高性能Hαフィルタに混入する黒体輻射による光を取り除き、純粋なHα成分のみの細かなディテールを再現するためになくてはならないフィルタです。

Hαと黒体輻射について

水素原子の放つ光

原子が外部からエネルギーを得て興奮した状態になることを「励起」といいます。励起状態(興奮状態)にある原子は、たまったエネルギーを発散させることで通常の「基底」状態に戻ることができます。このとき原子が発散するエネルギーが光となるのです。

Hα光は励起した水素原子が生み出した光です。原子の構造は中心に原子核がありそれをとりまくように電子が公転しています。励起(興奮)状態にある電子のエネルギーレベルには段階があり、基底状態をn=1レベルとすると励起(興奮)の度合いによりn=2,n=3…n=∞と分かれています。この段階のことを「エネルギー準位」といい、エネルギー準位が移動することを「遷移」といいます。励起(興奮)状態からどの準位(レベル)まで遷移したかで放出されるエネルギーが異なり、光の種類が異なります。

エネルギーは電磁波のかたちで放出され、波長により紫外・可視・赤外光の領域に分類されます。水素のエネルギー準位の系列には3つあります。(Fig.3参照)


・ライマン系列
紫外領域
基底状態へ遷移する系列
・バルマー系列
可視光領域
n=2へ遷移する系列
・パッシェン系列
赤外領域
n=3へ遷移する系列


電子のエネルギー準位が励起状態からn=2レベルの準位に遷移するバルマー系列のうち、n=3からn=2の遷移をバルマーα遷移といい、一般的に水素α、つまり「Hα」といいます。

Fig.3 水素のHα光とエネルギー準位


この放射は特定波長の光を放つため「H.輝線」といいます。H.輝線(Hα光)は可視光領域で観測しやすく、H.輝線(Hα光)を放出する電離水素が集まっている領域を「H領域」といいます。(Fig.4参照)


Fig.4 水素のエネルギー準位とスペクトル

水素は宇宙に最も豊富な元素です。Hα観測は世界的にも大きな関心が寄せられています。


黒体輻射(放射)による光

「黒体輻射に関するプランクの法則」によると、ある温度の物体は広域の波長の光を途切れのない連続光として放射していることになっています。水素原子が励起し、特定波長の光を放っている輝線とは違い、黒体輻射による光はその波長範囲内においてスムーズなもので、「ラインフリー」、「連続光=Continum:コンティニュアム」といいます。(Fig.5参照)

Fig.5 黒体輻射による連続光の生成

 炎の温度を比較した場合に黄色の炎よりも青い炎の方が熱いことから、物体の温度が高ければ青い光を放つとされるプランクの法則を確かめることが出来ます。
黒体輻射は、白熱電球、燃える薪、トースターに組み込まれたヒータのオレンジ色の光、太陽など、身近なところで目にする現象です。

Hα画像のための撮影と処理手順

水素原子が励起する際に受ける外部エネルギーが熱であると考えると、その天体からは2種類の光が発せられていることになります。ひとつは、水素原子が放つHα光、もう一つはこの天体から発せられる黒体輻射による連続光です。

Hαによる良質な画像を得るためには同じ視野を次の手順で撮影し、処理します。


1.パスバンドがHα放射に適したナローバンド型バンドパスフィルターで撮影
… 「Hα画像」という。Hα(656.3/4.5)フィルタを用い、オートガイド/トラッキングにより画像のズレを最小限にとどめてください。正確にコンポジット(画像合成)し、画像ゲインをあげておくことも大切です。
2.Hα生成時のエネルギーの副産物である連続光をコンティニュアムフィルターで撮影
… 「コンティニュアム画像」という。コンティニュアム(645/10)フィルタを用い、Hα同様オートガイド/トラッキングとコンポジットにより、最高のコンティニュアム画像に仕上げておいてください。
3.撮影された2つの画像を減算(Hα画像-コンティニュアム画像)処理する
… 「コンティニュアム減算処理済みのHα画像」という。2つの画像を比較し、露出時間とフィルタ半値幅の相違(通常、コンティニュアムフィルタの方がHαフィルタより広い)を補正します。最高に仕上がった両画像のレベルを合わせ、(ヒストグラム等確認のこと)Hα画像からコンティニュアム画像を引き算します。

 使用する機材や撮影条件により補正量は異なります。ご使用の機材・システム・特性に適した処理値を見つけ出してください。すばらしいHα画像は、最高の喜びです。Hα、コンティニュアムフィルタセットにより最高の喜びを手に入れてください。


↓ 各種コンティニュアムフィルターは以下よりご覧頂けます! 
→ レッドコンティニュアムフィルター
→ グリーンコンティニュアムフィルター
→ ブルーコンティニュアムフィルター
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